昭和天皇 終戦の詔書
昭和二十年 八月十四日
 
原文
 
朕深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク

朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇四国ニ対シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ

抑々帝国臣民ノ康寧ヲ図リ万邦共栄ノ楽ヲ偕ニスルハ皇祖皇宗ノ遺範ニシテ朕ノ拳々惜カサル所曩ニ米英二国ニ宣戦セル所以モ亦実ニ帝国ノ自存ト東亜ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ他国ノ主権ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固ヨリ朕カ志ニアラス然ルニ交戦已ニ四歳ヲ閲シ朕カ陸海将兵ノ勇戦朕カ百僚有司ノ励精朕カ一億衆庶ノ奉公各々最善ヲ尽セルニ拘ラス戦局必スシモ好転セス世界ノ大勢亦我ニ利アラス加之敵ハ新ニ残虐ナル爆弾ヲ使用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ惨害ノ及フ所真ニ測ルヘカラサルニ至ル而モ尚交戦ヲ継続セムカ終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招来スルノミナラス延テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ斯ノ如クムハ朕何ヲ以テカ億兆ノ赤子ヲ保シ皇祖皇宗ノ心霊ニ謝セムヤ是レ朕カ帝国政府ヲシテ共同宣言ニ応セシムルニ至レル所以ナリ

朕ハ帝国ト共ニ終始東亜ノ解放ニ協力セル諸盟邦ニ対シ遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス帝国臣民ニシテ戦陣ニ死シ職域ニ殉シ非命ニ斃レタル者及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ五内為ニ裂ク且戦傷ヲ負イ災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕ノ深ク軫念スル所ナリ惟フニ今後帝国ノ受クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニアラス爾臣民ノ衷情モ朕善ク之ヲ知ル然レトモ朕ハ時運ノ趨ク所堪へ難キヲ堪へ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ万世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス

朕ハ茲ニ国体ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ若シ夫レ情ノ激スル所濫ニ事端ヲ滋クシ或ハ同胞排擠互ニ時局ヲ乱リ為ニ大道ヲ誤リ信義ヲ世界ニ失フカ如キハ朕最モ之ヲ戒ム宜シク挙国一家子孫相伝ヘ確ク神州ノ不滅ヲ信シ任重クシテ道遠キヲ念ヒ総力ヲ将来ノ建設ニ傾ケ道義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ国体ノ精華ヲ発揚シ世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ爾臣民其レ克ク朕カ意ヲ体セヨ

御名御璽

昭和二十年八月十四日
内閣総理大臣 男爵 鈴木貫太郎
海軍大臣 米内光政
司法大臣 松阪広政
陸軍大臣 阿南惟幾
軍需大臣 豊田貞次郎
厚生大臣 岡田忠彦
国務大臣 桜井兵五郎
国務大臣 左近司政三
国務大臣 下村宏
大蔵大臣 広瀬豊作
文部大臣 太田耕造
農商大臣 石黒忠篤
内務大臣 安倍源基
外務大臣兼大東亜大臣 東郷茂徳
国務大臣 安井藤治
運輸大臣 小日山直登
 

 
現代語訳
 
 私(昭和天皇)は、深く世界情勢と日本国の現状とを考慮して、非常の措置によって事態を収拾しようと考えて、ここに、忠良なあなた方日本国民に訴える。

 私は、日本国政府に、アメリカ、イギリス、中国、ソ連に対し、その共同宣言(ポツダム宣言)を受諾する旨を通告させた。

 日本国民の平和と安寧をはかり、世界との共栄を喜びとすることは、代々の天皇の遺範であって、私も常々心にとどめてきたことである。先に、アメリカとイギリスの2か国に対して宣戦したのは、ただ日本国の存続とアジアの安定とを願ったためであり、ポツダム宣言に書かれているような他国の主権を排除して領土を侵すというようなことは、もとより私の考えていたことではない。しかしながら、戦争がすでに4年を経過した今、わが国の陸海軍の将兵の勇戦、多数の官吏のの励精、一億国民の奉公、いずれもが最善をつくしたにもかかわらず、戦局は必ずしも好転せず、世界情勢は我々にとって有利ではなく、さらに敵は新たに残虐な爆弾を使用して、何の罪もない市民を頻繁に殺傷し、惨害がおよんだところはまことに測リ知れないほどになった。これ以上戦争を継続しようとすれば、ついには、我が民族の滅亡を招くのみならず、ひいては人類の文明までも破壊されるだろう。そのようになったら、億兆もの赤子とも言うべき日本国民の命をあずかっている私は、どのようにして代々の天皇に謝罪すればよいだろうか。これが、わたし日本国政府に対し共同宣言に応じるようにさせた理由である。

 私は、日本国とともに、終始アジアの帝国列強からの解放に協力してきた諸国に対し、遺憾の意を表さざるを得ない。日本国国民で戦場で戦死しした軍人、職場で殉職しした官吏、戦火にたおれた市民やその遺族に想いをめぐらすと、わが身が引き裂かれるほどであり、また、戦傷を負い、災禍をこうむり、職を失った人々の再起については、私が深く心配している所である。思えば、今後、日本国が受けるであろう苦難は、非常に大変なものである。あなた方国民の降伏に対する無念も、私はよく理解している。しかし、私は、事態の趨勢に従い、堪えがたいことを堪え、忍びがたいことを忍んで、将来のために平和への道を選んだのである。

 私はここに、国体を護持することができて、忠良なあなた方国民の忠誠を信頼し、常にあなた方国民とともにある。もし激情のおもむくままに無用の混乱を引き起こしたり、あるいは同胞に対して分裂して争うなどして時局を乱し、そのために大道を誤り、信用を世界に失うようなことは、私が最も強く戒めることであり、国民皆が子孫にいたるまでも神州(日本)の不滅を固く信じ、個々に課せられた責任の重さと今後の長い道のりを自覚し、総力を将来の建設に傾け、道義を重んじ志操をかたくし、必ず国体の精華を発揚し、世界の発展におくれることのないよう努めるべきである。あなた方国民は以上のような私の意思を理解し従ってほしい。
 

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